【特集】カルウォーヴィチについて

私たち九大フィルは、2022年6月17日に行われる第208回定期演奏会にて、カルウォーヴィチの交響曲ホ短調「復活」を演奏します。この曲は、なんと今回の演奏会が九州初演になります。

これを機に、多くの方にカルウォーヴィチの交響曲ホ短調「復活」について知ってもらいたいという思いから、この特集を組む運びとなりました。

 本作品の紹介をするにあたり、まず彼自身の紹介をさせていただきます。ミェチスワフ・カルウォーヴィチ(1876~1909)はポーランドの作曲家、指揮者であると同時に、作家、登山家、写真家など様々な側面を持っています。彼が生まれる少し前のポーランドは、度重なる領土の分割や他国からの支配を受け、その音楽界もまた衰退の一途をたどっていました。独立の回復を求める民族蜂起も幾度となく鎮圧されたましたが、それでもなお独立を求めるポーランド人の民族意識は高まっていました。そのような環境に生まれたカルウォーヴィチは、ポーランド音楽界再生の希望の星として、のちに人々から大きな期待を寄せられることになります。


 作曲家としてはワーグナー、チャイコフスキー、リヒャルト・シュトラウスを崇拝しており、彼の楽曲の随所にその影響が見受けられます。また、甘美なメロディーと充実した和声を特徴とした作風で、とりわけ 5 つある交響詩は、洗練されたオーケストレーションをいかんなく発揮して情景を見事に描き出しており、人気を博しました。今後が非常に期待される作曲家でありましたが、彼の生業の一つでもある登山中に雪崩に巻き込まれ、若くしてその生涯を終えました。


 さて、本作品「交響曲ホ短調”復活”」は、カルウォーヴィチがドイツでの留学を終え、ポーランドに帰国するまでに書かれました。苦しみもだえる魂が様々な葛藤を経て「復活」に向かっていくさまがこの曲の副題となっています。比較的初期の作品ですが、その内容は洗練され、創意工夫に満ちています。この曲は、書き上げられてから約3年後にベルリンで初演を迎え、好評を得たようです。さらにその 2 週間後、祖国ポーランドでの初演が行われた際に、交響曲の各楽章に寄せる自作の詩が新聞に掲載されました。本作品の、チャイコフスキーの交響曲にも似たドラマチックな楽想が、彼に筆を執らせたのでしょう。そこには彼の文学的、哲学的なアイデアが詰まっており、彼の作家としての一面がうかがえるエピソードとなっています。以下より楽章ごとの紹介をいたしますが、この詩も一緒にご紹介します。この隠れた名作を楽しむための一助になれば幸いです。

第1楽章
*
永遠の安息を...
打ち砕かれた青春の夢の棺桶から、香の煙と混じり合った不吉で寂寞とした歌声が流れてくる。オルガンの柔らかで悲痛な響きがそれに寄り添う。
永遠の安息を...
これまで存在を支えてきたものすべてが砕け散り、悲しみと果てしない嘆きが、半狂乱になった魂を襲う。
どうしたらいいのだろう?どこへ行けばいいのだろう?
しかし、生命への至高の権利が惰性に打ち勝つ。魂は昏倒からゆっくりと立ち上がり、落胆に対する強い抵抗が魂に目覚めると同時に、未来の存在の基盤、再生へと続く限りなく長い灰色の道が目の前に開かれるのである。
そして、その思いから、小さな努力を積み重ね、定められた目的に向かっていく、疲弊した日々が始まる...
唯一の刺激、唯一のインスピレーションは、先を見据えることであり、その実現に対する確固たる信念に裏打ちされた素晴らしい思考である。しかし、その未来はまだ遠く、一瞬の油断や気の緩みが必ず悲惨な結果をもたらす。運命の手による一撃が雷のように落ちてきて、すべての夢を打ち砕くのだ。そしてまた、あの遅々とした土台作りの作業。
しかし、今、奇跡の時が近づいている。熱烈に望む未来への希望に満ちた軽快な歌が、ますます力強く響く。勝利はもう目の前だ...
いや... 早すぎる...
それもまた、幻だった。そして、生まれ変わる瞬間が近いと思えば思うほど、その失望感は強く残酷なものになる。
*

 弦楽器により、「不吉で寂寞とした歌声」、「悲しみと果てしない嘆き」に当たる序奏が静かに始まる。次第に活気を増し「復活」への前触れを見せるが、すぐに静まり Allegro の主要部に入る。半ばマーチのようなリズムを持つ第1主題はこの後何度も繰り返され、「小さな努力を積み重ね、定められた目的に向かっていく、疲弊した日々」を表現する。オーボエによって示され、ヴァイオリンに受け継がれる第2主題は、「実現に対する確固たる信念に裏打ちされた素晴らしい思考」を表す。その後は対照的に力強い下降音形が現れ、それらを扱いながら、「すべての夢を打ち砕く」強烈な終結部を迎える。
第2楽章
*
戦いと闘争に疲れ、魂は眠りについたのだ。その目の前には、静謐で明晰な絵が広がり、意志が束縛から
解放される瞬間を夢想している。陽光が世界にあふれ、祝祭の装いで世界を彩る。
すべてが楽しく、子供の笑顔のように純粋だ。生きるのはとても楽しくて簡単だ!
しかし、これは何なのだろう?運命の不吉な歌声が遠くから聞こえてくる。
だが、それは無力で、通り過ぎて死んでいく。
本当にこれは夢なのだろうか?なぜかというと、すべてが鮮明で、はっきりしているからだ。
これは現実に違いない。これは憧れの瞬間だ!運命の歌は再び鳴り響くが,今度はさらに弱く,
さらに遠く,平静を損なうことはできない。これこそ勝利か、勝利なのか?
信じるべきものなのだろうか?しかし、その道のりは長いようだ!
3度目の運命の歌が鳴るが、今度はこの喜びに満ちた夢の歌と穏やかに、そして調和して絡み合っている。
陽光が世界中を強い光で包み込み、すべてが歓喜と厳粛な注意の中で偉大な復活の瞬間を迎えているようだ。
*

 短い序奏の後、チェロの独奏でこの楽章の核をなす主題が示される。カルウォーヴィチはこの主題をのちに「愛の夢想のテーマ」と呼んでいたという。曲の中盤では、クラリネットにより「運命の歌」が奏される。
第3楽章
*
いや...
これは現実ではない、夢のような幻覚であり、跡形もなく吹き飛んで消えてしまったのだ。
平凡な日常に戻る。努力も無駄、執念も無駄、そんな幻影はもうごめんだ!
人生に踏み出そう!すべてを忘れ、自分自身を捨て去るために!愛し、楽しむために!
何も考えず、何もかえりみず、ただひたすらに!
儚い印象が次々と過ぎ去っていきますように、煮えたぎる生命がワインのように頭をよぎりますように、
理性が降りてきませんように、この渦の中に吸い込まれ、失われていきますように!
しかし、もう少しだけここに留まっていよう!
この瞳をもっと見つめて、この桜色の唇から絶え間なく飲み干すのだ!
この人こそ、憧れの、夢見た女性だ。この世界には彼女しかいないのだ!そんな熱い愛の歌が鳴り響きま
すように!
しかし、これではだめだ!もうたくさんだ!前へ、さらに前へ!渦は魂を遠くへ押し流し、すべてが小さ
くなり、消え、衰退し、消滅する... 疲れ果てた魂は、しばらくの間、生まれ変わることを忘れていた。
*

 この楽章は、狂喜的なスケルツォ部分と、「憧れの、夢見た女性」を表すような美しいトリオ部分からなる。スケルツォ部分は狂喜の渦を表すような極めて速いワルツの形式をとる。
第4楽章
*
しかし、今、永遠のシグナルが、まるであの世から聞こえてくるようだ。その瞬間は近い。
立ち上がれ!新たな戦いへ、今度こそ勝利へ!
再び活力を得て、新たな力にはちきれんばかりの魂は、鋼鉄の鎧を着た騎士のように勇敢に、戦いを再開
する。もう、誰も逆らえない。自信に満ち、ひたむきに、望みの瞬間への憧れに
満ち、勝利に向かって突き進む。
ついに新世界が現れる。復活の賛美歌が、最初は優しく、甘く、そしてより豊かに、より完全な形で聞こえ
てくる。ファンファーレが鳴り響く、その瞬間がやってきた。あと一息だ!
しかし,まだ早すぎる。まだ最後の試練がある。
最後の最後に、魂は疑惑に悩まされる。それはつらい試練だ、おそらく最もつらい試練だ。
しかし、魂の力は強大である。闘いはすぐに決着がつき、あの世からのシグナルが再び聞こえてくる。そ
して、力強く、凛とした復活の讃美歌が鳴り響く。念願の瞬間が訪れ、しがらみは打ち砕かれた。
魂は勝利し、穏やかにたたずみ、その目は彼方を見つめて、すべての人々に復活への道を示している。
*

 3楽章からアタッカで始まる。序奏はホルンによって奏でられる「永遠のシグナル」。その後は、「勝利に向かって突き進む」快活な第1主題、「望みの瞬間へのあこがれ」を表す第2主題と続く。金管のコラールにより「復活の讃美歌」が提示されて、再現部に入る。終結部の前には印象的なティンパニのソロが入り、「復活の讃美歌」を再び奏したのち徐々に速度を増し熱狂的に曲を閉じる。

 以上がカルウォーヴィチと、交響曲ホ短調「復活」についての説明となります。いかがでしたでしょうか。こんなにも魅力に溢れている作曲家カルウォーヴィチについて、より多くの人に知っていただけましたら、嬉しい限りにございます。

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